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書籍:利益のあがる勝ち残り工場経営
SERVICE&PRODUCTS

7章 ボトムアップ改善  &ちょっと休憩 「感情は行動のエネルギー」


1.会社の「ビジョン」を全社員が共有化する

会社は、何らかの将来目標を持って日々の開発・生産・営業などの経営活動をしているが、中小企業ではその目標が社長の頭の中にはあるものの、文章として表現されていない場合が多い。
社員はときどき社長からそれについての話を聞くが、一方的な押し付けの話に終わり、日常に仕事にはあまり反映されない。
そこで、共通の目的や行動のよりどころになる目標に組み立て、それを文書にあらわして全社員に徹底すると、全社員の力が結集されて経営改善がはるかに効率的に進み目標実現の確率は高まる。
そのような将来に対する目標を「ビジョン」と呼ぶが、このビジョン作りでは3つのポイントがある。
まず第1に、ビジョンとは10年先に作りあげたい会社の姿である。一般的には何らかの目標を決めて10年間努力すればそこそこ思うようにできるものであり、3年とか5年だと少し短かすぎて現実的な姿しか描けないし、また長すぎても力が入らない。
第2に、ビジョンは10年先を見越して全社員で考えて共有化したものである。経営者ひとりの考えではだめで、全社員が真剣に考えて心からその実現を望んでいることが絶対に必要である。社員が望まないビジョンは実現はしない。
第3に、ビジョンは「No1になろう」とか「お客様に信頼される製品を作る」というような掛け声やスローガンだけではなく、「将来の活動分野と製品やサービスの内容・売上高・給料体系」などの具体的な内容が織り込まれていることが必要である。
このビジョンは、若手を含む経営幹部が徹底的に話し合って仮ビジョンを設定し、それをもとに社員の意見を織り込んで完成させる。


2.ビジョン作り @ 利益の源泉

自社のビジョン設定ではまず10年先の利益の源泉、すなわちどのような活動分野で、どのような製品やサービス、または機能を顧客に提供するかを決める。その検討のもとになるのは、現在の経営状況および自社の「強みと弱み・機会と脅威」である。
検討の取っ掛かりは現製品の需要予測で、これから10年先に現製品の機能(役割)が必要かどうか考える。
たとえばエアコンの機能は空気環境の調整で、この機能は10年先にはさらに強化されることが必要と考えられる。なぜなら排気ガスによる空気の汚染・地球温暖化という空気環境の悪化に対して、高齢化で体力は弱る一方、人の快適性志向はより強くなるからである。だからエアコンは、形や方式は変わるがこのような機能が強化された製品が登場するはずである。
一方寝具はどうだろうか。寝具の機能は寝ているときの温度保持とクッション性だから、ひょっとしたら部屋の快適性が向上し衣服にクッション性能が加わると、寝具なしで寝るようになるかもしれない。また寝具がなくなれば部屋を広く使えるようになるからさらに不要なものになることも考えられる。
このようにして10年先を考えれば現在の製品の需要がある程度予測されるので、その機能がより一層必要になると考えられる製品は10年先の利益の源泉と考え、機能が不要になると予想されるならば他の活動分野や新製品を検討する。それは、現在の製品の関連分野か、または現在のる経営資源を有効活用できる製品、さらには検討の過程で思いついた製品でもよい。何点かの候補をあげて需要の大きさ・収益性・実現性などから絞り込んでいく。


3.ビジョン作り A 目標の売上高

将来の利益の源泉になる新製品案がいくつか出たところで10年先の売上高の目標を設定する。もちろんまだ新製品の内容や形など具体的には何も決まっていない段階ではあるが、こちらの思惑で大胆に希望的観測を入れて売価と数量を決める。
また現在の製品についても10年先の売上高を、製品のモデルチェンジや新規顧客開拓などを織り込んで設定する。その売上高と新製品の売上高を加えると、10年先の売上高が決まる。
ところで会社の活気は会社存続に非常に大切な要素である。
その活気が感じられるのは、会社が規模的に大きく成長しているときで、10年間の平均年間成長率は最低20%を考えたい。もちろん売上高が前年を下回る年もあるため、伸びる年には30%とか40%の急成長もあることになる。
毎年20%の売上増で計算すると、10年先には現在の6.2倍の売上高になり、これを基準に自社の意気込みで倍率を決めればよい。
目標にする倍率をあまり控え目に設定すると、夢が感じられないために力が入らずかえって実現しなくなる。
だから、もし計算した新製品と現在の製品の10年先の売上高合計が現在の6倍以下なら、新製品の数を増やしたり、現在の製品のシェアアップや製品の垂直展開・水平展開などによる売上高の増加を目論むことが必要である。
このような検討をしているうちに、将来の製品構想が変化するかもしれないがそれでもよい。もとに戻って何度も最初から考え直すことは大事である。これを繰り返すことによって、10年先の姿がより明確に、より近く見えて現実味を帯びてくる。


4.ビジョン作り B やる気の出る給料

ビジョンの3番目は社員がやる気の出る給料である。
社員が寸暇を惜しんで一生懸命に働くのは、「今の給料が他社に比べて高い満足感から」と「仕事の結果が将来の高い給料に反映される期待感から」のどちらかである。
給料以外に「仕事が面白い」から一生懸命に働くといった考え方もあるが、芸術家などを除き一般の会社に勤めるサラリーマンのほとんどは給料が高いほど、また給料のアップ率が高いほどよく働く。
課長や部長それに取締役という会社での地位は、最近はあまり仕事に対する動機付けにはならない。逆に「自分は取締役なのに給料が低い」と愚痴をこぼす幹部や、「係長や課長にはなりたくない、管理者になっても給料は安く責任だけが増える」という若い人も多い。
これは地位が高くなっても給料はそれほど上がらない、つまりポストと待遇が一致していないからである。
だから10年先に1人当たりの給料をどの程度にするのか、そしてその評価方法を具体的に決めてビジョンにするのである。
たとえば「平均給料は同業他社の2倍、また最高クラスの評価の人は社長よりも給料が高い」くらい大胆に決めることである。
もちろんそれを実現するためには生産性を倍増する必要があるが、これから10年間で生産性を他社の2倍以上にするという目標を設定して計画的に改善を進めていけばよい。
また、それぞれの給料は仕事の成果で大きな差をつける。しかしその評価は1回限りのもので、次の評価は「0」からスタートする。
このようなやる気の出る給料体系が明確になれば社員は必死になり、それが10年先のビジョンを達成する原動力になる。


5.ビジョン達成の部門課題

このようにして、自社のビジョン(10年先の製品・売上高・給料)が決まったら、次はビジョンを達成するために各部門に不足しているものは何か、また何をすればよいのかなどを部門毎に検討する。
各部門でグループ数名単位に分かれてビジョン達成のディスカッションを行い、それぞれの立場で気のついた問題点や課題、改善テーマやアイデアを何でもよいから1人10件以上書き出す。
この段階では書き出した内容のよし悪しよりも「数」が必要である。内容は系統だっていなくてもよいし、根拠が不明確でも、単なる思いつきでも、また他部門のことでもよい。
たとえば営業部門なら、「新規顧客の開拓が必要である」「顧客からの苦情のない製品を作って欲しい」「日本だけでなく海外展開が必要だ」「女性の営業レディーが必要になる」「情報がタイムリーに伝達できるように携帯パソコンを持ちたい」「見積もりが簡単にできるパソコンシステムを作る」「営業ツールの資料を充実させる」「斬新な製品カタログが欲しい」などいくらでも出てくる。
また製造部門なら、「工場を増設する」「品質レベルを高めるためにISO9000を取得する」「機械の故障を減らす」「生産性を高める」「生産技術力をレベルアップする」「材料・製品在庫をなくし、多品種少量生産体質にする」「生産設備を自社開発する」「納期遅れをなくすため部品の入荷遅れはないようにしてほしい」などである。
同じようにして、設計部門、資材・経理・総務などの管理間接部門からも多くの意見を出してもらう。
こうして集まった多くの意見を部門別、内容別に一覧表にまとめるが、この段階ではあまり細かく分類しないほうがよい。


6.経営改善のテーマ一覧表を作る

10年後のビジョン達成のために、今までにまとめあげてきた資料を使ってこれから取り組む経営改善のテーマ一覧表を作る。
参考にする資料は、既に検討した「経営成績と改善ポイント」「製品と改善ポイント」「売上と改善ポイント」「原価と改善ポイント」「経営資源と経営環境」「自社の強みと弱み・機会と脅威」そして「自社のビジョンと各部門の課題」である。
多くの資料があるために大変そうであるが、この段階は非常に重要なので時間をかけて取り組む。テーマの設定を見誤れば、遠回りをしたり、ビジョン達成が困難になる。
この経営改善テーマの設定は経営幹部を中心に若手中堅社員を加えて行うが、ここで大切なことはそのテーマができそうかできそうでないか、またよいアイデアがあるかないかは考えないことである。多くの人は、テーマ設定のときにできそうにないと思うことはテーマから外してしまい、今考えてすぐにできることやアイデアの思いついたことしかテーマに選ばない傾向がある。
これから10年かけて改善ステップを踏んで実行していくわけで、今その解決策が見つからなくて当然である。経営改善では可能性(アイデアがある)からのテーマ設定ではなく、必要性(ビジョンの達成)からのテーマ設定であることを意識することである。
こうして新たな発想で十分に検討すると数多くのテーマが出てくるが、@ 研究開発に関すること A 製造に関すること B 販売に関すること C 資金に関すること D 管理(人・組織・仕組み)に関すること E その他の項目で分類し、関連する問題点や課題をひとくくりにしてテーマ設定し、経営改善の一覧表が完成する。


7.優先順位を設定する

経営改善のテーマ設定は必要性だけで検討してきたが、次は数多くの経営改善テーマのどれから着手すべきかの優先順位を決める。
現在の経営資源を最も効率的に使い、最短距離と時間でビジョンを達成するためには優先順位を上手につけることが大切である。
まずこれから10年先のビジョン達成に向けて、いつまでにそのテーマができていなければならないか、テーマ間の関連性をつけながら達成納期を決める。あまり細かく納期を区切るよりも、3年先に達成が必要なテーマ、5年先までに達成が必要なテーマ、7年先までに達成が必要なテーマに区分すればよい。7年先以降は空白(余裕とテーマの追加用)にしておく。
そして個々のテーマに必要な実行期間を想定し、達成納期からさかのぼって着手時期を決める。ここで、2年以内に着手が必要なテーマはAランク、4年以内に着手が必要なテーマはBランク、それ以外はCランクに評価する。
 次はビジョン達成への必要性で評価する。ビジョン達成に必ず必要なテーマはAランク、必要かもしれないテーマはBランク、必ずしも必要とはいえないテーマはCランクにする。
最後はその達成の困難度で評価し、高い方から1・2・3…にする。改善に必要な資金で優先順位をつけたくなるが、それは実施ベースで複数案を出して採算性を検討するため今は不要である。 
こうして、達成時期と着手時期・必要性・困難度で評価ができた。
全体を見渡して着手時期が早く、必要性が高く、困難度が高いテーマ、すなわちAA1のテーマが優先順位の1番である。次がAA2、そしてAA3というようにして経営改善の優先順位が決まる。


8.推進体制作りと時間の工夫

今までに煮詰めてきた経営改善のテーマを実行する上でまず必要なことは社内の推進体制を整えることである。基本的にはトップダウンによる組織横断的なプロジェクト方式が適している。
今年度に着手するテーマごとに各部門から推進の適任者を選出してプロジェクトチームを作り、その中からリーダーを決めて進めていく。適任者は部長や課長だけではなく、係長や一般職の若手でそのテーマをこなせそうな人、また将来を期待する人を選ぶとよい。
もちろんそのプロジェクトチームはテーマが完了するまでの臨時的な組織で、必要に応じて結成したり解散したりする。
 また社長をはじめとする経営幹部やリーダーでプロジェクト推進委員会を構成し、適任者を決めたり、改善の総合調整を行う。
一方、テーマの数が多いと1人が複数のテーマをこなす必要があり、時間の捻出を工夫する必要が出てくる。少なくとも管理職ならこのような経営改善に取り組む時間を、仕事時間の半分くらいは取りたい。この比率を経営改善業務比率と呼び、これを高めるためには日常業務を効率化することが必要である。
ここでいう日常業務とは、今の現状を維持する業務のことで、日常の生産調整、クレーム対策や納期対応などのトラブル業務、また定型的な決済判断業務のことである。管理職がこのような業務にかけている時間の比率を数字で明確にして効率化していくとよい。
以上で推進体制の構築と、改善に必要な時間を生み出すことができた。次はそれぞれのプロジェクトチームで実施段階に移っていくが、以降は強力なトップダウンのフォローが必要である。トップダウンとは社長や取締役の「燃え続ける意志」である。


9.実行計画書とフォロー体制

実施段階で最初にすることは実施計画書作りであるが、意外に計画書作りを簡単に済ませる人が多い。計画は変化するものだから大雑把でよいという考えである。それもひとつの考え方ではあるが、段取り八分というように、計画のよし悪しでテーマがうまく進むかどうか、また期待する成果が得られるかどうかが決まってしまう。
この計画書作りで大切なことは、計画書から具体的な行動が読み取れることである。そのためには5W1Hが計画書の中に表現されていることが望まれる。
What−何を・Who−誰が・When−何時・Where−どこで・Why−なぜ・How−どのように、といった内容がある程度具体的に書かれているとよい。特に、何を・誰が・何時は必ず書かれていなければならない。だから実施計画書にはプロジェクトチームのメンバー全員の名前が書かれることになり、自分の役割分担が明確になり責任感が生まれてくる。
実施計画書ができたら実行のスタートであるが、Plan→Do→Check→Actionの管理の輪を小さくまわしていくことが大切である。
プロジェクトメンバーは、週に1回は集まってお互いの進度の報告と問題点や内容の検討、また計画の見直しを行う。
またプロジェクト推進委員会では、それぞれの個別の経営改善テーマがどのように進展しているか、関連するテーマ間の調整、また予算化が必要なテーマの検討、さらにはプロジェクトメンバーの入れ替えや再編成、プロジェクトとチームの発足、解散などを決める。
定期的には月に1回、そして必要に応じて臨時に行うことである。
しっかりとした計画と十分なフォロー体制が成功の秘訣である。


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ちょっと休憩 「感情は行動のエネルギー」

人間には「理性」や「感情」といわれる能力が備わっている。
理性とは、理論や理屈をたてて考える能力で、物事を冷静に第3者的に見る力である。しかし、理性では失敗したときのことを考えやすくて守りになり、行動を起こさせるエネルギーは小さい。
これに対して感情は、喜・怒・哀・楽など心を刺激する力で、感情的に行動するといわれるように行動のエネルギーである。
ただし感情は変わりやすいことが難点で、ある時は激しいと思ったら、ある時は覚めたりとそのレベルは大きく変化する。
このような「理性」と「感情」の特徴をうまく使い、「物事を理性的に考えて、行動内容や日程および安全策の計画を作り、そして感情を盛り上げて行動エネルギーを満たし、一気に猛烈に行動する」のが一番よい結果を生むようである。


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